意味不明なハルトの言葉を
不思議に思いながらも
携帯の通話を切る。


よくわかんないけど
とりあえずこの場は切り抜けたし
今度の事は今度考えよう。


そうして怪我した足を庇いながら
ベッドから降りると
真っすぐに足を壁の方に向けた。


白い壁を背景にして軟らかい曲線を描く
濃紺に光るギター。

私の記憶が正しければ
これは『Ibanez Custom AX』


懐かしさにそっと手を延ばすと
指先に触れた冷たく滑らかな質感に
胸がギュッと締め付けられた。


「俺のギターが何かあんのか?」

「ッ!!」


驚いて手を離して声のした方を向くと
ユウが濡れた髪のまま
鋭い目をして
ドアの縁に片手をついていた。

髪の水滴がポタポタと
床のフローリングに落ちる。


「べ、別に何でもないけど」

「ふーん、それにしちゃ
ずいぶん思い詰めた顔して
そのギター見てたな」

「何でもないってば。
じ、自分こそ髪もそんなで
慌ててお風呂から出てきて
見られたくないものでもあるみたい」

「……そうかもな」

「えっ!?」


ごまかす為に適当に言っただけなのに
思ってもみないユウの返しに
驚いてかなり大きな声が出た。


――どういう事?


探るようにユウの目を真っすぐに捕えると
彼は反らす事なく
さらにその鋭さを強めていくから

同時に沈黙が重くのしかかり
耐え切れなくなって
私の方から目を反らした。


すると頭上でフッと笑い声が漏れた後


「体調大丈夫そうなら
お前も風呂入れば?
夕べかなり汗かいてたから
身体気持ちワリイだろ?」

「う、うん」

「心配しなくても
覗いたりしねえから安心しろ。
ガキの裸なんか
これっぽっちも興味ねえから」

「いちいち言わなくてもわかってる!
じゃあ遠慮なくシャワー借りる」

「ああ、昨日買ったもんは
洗面所に置いてあるから。
タオルもそこにある」

「わかった」