それから急いで服を着替え
何も言わずに家を出た。


まるで悪魔にとりつかれたように
朦朧とした意識のまま向かったのは海。

自宅から10分程歩いて来たここが
今の私とケイを繋ぐ唯一の場所だった。


潮の匂いが段々と強くなり
さざめく波の音が聞こえ始めたら
身体が徐々に浄化される感じがした。


海水浴シーズン真っ只中な今の時期だけど
この辺りの海は潮の流れが複雑らしく
遊泳禁止になっていて
誰もいない早朝の砂浜を歩き
波打ち際まで近づく。

サンダルの足に
細かい砂が沢山入り込んできて
不快に感じて足を少し振って
サンダルを脱ぎ捨てた。


真夏の光る太陽が水面を照らし
キラキラと反射して
普通なら誰もが目を細めるくらい
眩しく輝く景色なはずなのに

空と海の青色が
今の私には全て灰色に見えた。


かばんを砂浜に放り投げて
足のすねまで水に浸かる。


――あの記事の通りなら
ケイが命を落とした海。

海水に触れた肌が
まるでケイに触れたような錯覚を覚えて
胸が切なく震えた。


それにここは地球の反対側のカナダ
――つまりはケイの生まれ育った世界とも
遠く遠く繋ぐ場所。

同じ理屈で言うなら
空気や空も繋がってるはずだけど
海は直接肌に触れられるから。


――そんな風にこじつけて
今私がいる遠く離れた日本でも
少しでもケイを近くに感じていたくて
何度もこの場所で自分を慰めてきた。


でももうケイはいないんだ。


二度と彼に会えない。


それなら――。