「……キ
……アキ!アキ!」


ハッと気付くと演奏は終わってて
誰かが耳元で私の名前を呼ぶ声。


「アキ!
さっきからボーッとしつどうした?」

「……ハルト」


瞬きを何回かして回りの光を取り込むと
すぐ側にハルトがいて
眼鏡の奥から鋭い目をこちらに向けてた。


「もう練習終わったけど」

「えっ!?」


彼の言葉に驚いてサクラ達の方を向くと
二人はいつもの如く
憎まれ口を叩き合いながら
楽器の片付けをしてた。

彼らのそんな様子から
無意識ながらも
きちんと自分が弾けてたんだってわかって
ホッと胸を撫で下ろす。


「大丈夫か?
いつもと様子違うけど
何かあったのか?」

「ううん、別に何もないよ。
うん、もう終わりだよね。
片付けよっか」


彼の疑いの眼差しから逃れるように
彼に背中を向けて
急いでストラップを肩から外し
いつにないスピードで
手早く機材を片付けた。


「じゃあごめん
私ちょっと先帰るね!」

「あれーアキ
今日はみんなで飯食ってかねーの?」

「いーのよコウ!
アキ今日は用事あるんだって!
じゃーねー!また電話する」


サクラが何か含みを持たせるように
ウインクをするから
苦笑いしつつも軽く手を振って
スタジオを後にした。


蛍光灯の明かりが薄暗い通路を歩き
どこからか吹き付ける風に
ありえないくらい寒気がして
目の前が一瞬真っ暗になる。


……これは本当にやばいかもしれない。


ふらつく身体を支えるために
壁に片手をついて息を整える。

冷汗が背中を伝っていくのが
自分でもわかった。


タクシーで帰るかしないと
ちゃんと家につけそうもない。


っていうかアイツ家の住所
駅前って事しかわからなくて
詳しい道順を知らないことに
今更ながら気が付いた。


バカだな私。