「ちょっとあんた達、遅いわよ!
本番まで時間ないんだから
一分一秒も無駄に出来ないんだからね!」

「んー別にいーじゃん?
適当に気合い抜いとかないと
本番までもたねーよ」


こんな風にサクラの攻撃を
さらりと交わしたのは
ドラムの坂田 航(コウ)。

長身にオレンジブラウンの髪
ピアスは片耳に3個。

性格は飄々として
何考えてるのか掴み所がないけど
ドラムの腕は確か。


「そうやって言い合ってる時間こそ
無駄だと思うんだけど」

「相変わらずあんたは
一言多いのよ!」


こう冷静な声を上げて
不機嫌そうに顔をしかめたのは
ベースの北見 遥斗(ハルト)。

緩くパーマのかかった黒髪に眼鏡。
気難しい性格だけど
音楽の知識は人一倍。

担当はベースだけど
他の楽器も一通り扱えて
多重録音して作曲するのが趣味。


こんな4人で結成したのが
“Gold Cherish ”。

バンド名を考えたのはもちろんサクラ。

まぁボーカルはバンドの顔だし
それもアリだと思う。


「それじゃ練習始めるわよ〜」


各自楽器の準備も終わり
サクラの掛け声で
それぞれ緩く返事をする。


「アキ、どうした?」


少しボーッとしてたみたいで
ハルトが眉を潜めて私の顔を伺う。

その顔が一瞬霞みがかってたけど
ごまかすように顔を振った。

――身体が熱い。


「ううん、別に何でもない」


無理矢理笑顔を作ってそう言うと
ギターの弦を見るふりをして下を向いた。