そうしてサクラの抗議を
適当に交わしながら
部屋を横切ってアンプをいじりに行くと
瞬間サクラが驚きの声を上げた。


「ねえ!アキ
足どうしたの?」


……気付かれた、か。

余り引きずらないようにして歩いてたけど
やっぱり彼女の目はごまかせない。

包帯を隠すために
サンダルをスニーカに履き変えてきたのも
無駄になったみたいだ。


ひと呼吸置いて
気持ちを落ち着かせてから
心配そうにこちらを伺う彼女に向かって
無理に笑顔を作る。


「ちょっと昼間海で怪我しちゃって。
でも全然平気だから」

「本当に平気?
ライブなんかしたら傷に障らない?
……でもアキがいないと
私達のバンド
ステージに立てなくなるけど」

「全然大丈夫!
ステージ上で
飛んだり跳ねたりしないかぎり
普通にプレイできるって」

「そう?ならよかった。
何かあったらすぐ言ってね。
私も出来る限りのフォローするから」

「……ありがとう」


心の底からホッとしたような
サクラの顔を見て
胸がズキリと痛む。


それと同時に
あいつの言葉が浮かんできた。

“人の夢を潰す権利なんかない”って。


あいつの言う通りだ。


「サクラ」

「ん?何?」


神妙な顔をして呼び掛けた私を
サクラは再び心配そうに覗き込む。


「お願いがあるんだけど。
ライブまでサクラの家に
泊まるって事にして欲しいんだけど」

「えっ!?
何でそんな事。
もっと詳しく説明しなさいよ!」


説明って。
とりあえず当たり障りないように、


「えっと、
今日海で怪我した私を
助けてくれた人がいて

その人がしばらく
一緒に住もうって言うから」

「は?
ちょっと待って!!
何なのその話!?」


大きな黒い瞳を
さらに見開いて驚くサクラをみて
しばし考え込む。