しばらくして鞄の中から
携帯の着信を知らせる音が
ひそやかながら耳に届く。


時間がたっても切れたりしないで
ずっとずっと鳴り響いてて
鼻をすすりながら
ディスプレイを確認すると
見慣れない11ケタの数字。


……誰?


何となく出なきゃいけないってそう思った。


「もし……もし?」

『お前は救いようのないバカだ』


覇気のあるこの尖った声は……


「……ケン?」

『なんでお前はいつもそうやって
自分の大切なもんから
離れようとすんだよ!

ケイの時だってユウキの時だって
お前まだガキなんだから
もっと我が儘言っていいんだよ!』

「……」

『お前一人くらいどうにでもなる
ユウキはそれぐらいとっくに覚悟してた。

事務所に何言われようと
世間にどう見られようと
それはねのける実力も
ちゃんともってる奴だ!
お前が1番それよく
わかってんだろうが!』


そうやって素直に感情あらわにして
怒りぶつけてくるケン。

人の事なのに
まるで自分の事みたいに心配してくれて
その優しさにまた涙が出た。


「うん、わかってる。
わかってるけど……」

『アキ……あれが原因だろ?
俺の結婚事務所が隠すって言った』

「……」


携帯を持つ手に力を込める。


『あれは別にお前のせいじゃないだろ?
事務所との契約無視して
こんな事になった俺が悪い。

そもそも偶然今回の事が
きっかけになっただけで
事務所はそうゆう手に出るチャンスを
きっと狙ってたんだ。
昨日の夜の事が無くても
いつか同じ結果になってた。

彼女だって別に気にしてねーし
俺らが良いって言うんだから
お前が責任感じるなよ!』


彼の言葉を無言で聞いて
少し考えてから口を開く。


「……二人が許してくれても
私は自分の事許せない。
ごめんねケン、ダメなんだ。
私はこういう風にしか生きられない」

『アキ……』