「ああ、これから業者が来るから」


感情のうつさないユウキの言葉。
彼のこんな声
今まで一度も聞いた事ない。


「そう、それじゃあ新幹線の時間
遅れないようにね」


固いフローリングの床の上
足先から伝わるように
どんどん冷えていく身体を感じながら
今の会話を頭の中で繰り返し再生する。

呼吸が苦しくなって
胸の前に拳を当てた。


するとバタンって
玄関の扉が閉まる音が聞こえて
すぐにガツンッて
多分その扉を蹴ったような鈍い音と振動
そして「クソッ!」とユウキの舌打ち。


今彼はどんな顔をしている?


見えてないのに伝わってくる
彼の怒りと後悔
それに傷ついた心。


そんな顔をさせる原因を作ったのは私。

――私のせいなんだよね?


やがてこちらに近づいてくる気配がして
急いでベッドの上に飛び乗った。

何故だか今の話を聞いてたこと
ばれたらいけない気がして。

ガチャリって寝室のドアを開ける音がして


「アキ?」


その声で丁度今起きたみたいに
かぶったタオルケットの隙間から
のそのそと顔を出す。


「ん……もう朝?」


バカみたいな演技までして
ホントは心臓ドキドキと高ぶってるのに。


ドアのそばに立つユウキは
グレーのワークパンツにTシャツ姿で
何か探るように私の顔をジッと見た。


もしかしたらバレタのかもって
ビクビクしながらも
ひきつりそうになる顔に
無理やり笑顔を作る。


「どうしたの?」

「……いやなんでもない。
アキ、朝飯くおーぜ!
思えば昨日の夜飯すら俺ら食ってねーし」


いつもと同じ彼の笑顔。


やっぱり今の話
私に話すつもりはないんだ。

全部自分で背負って
傷ついた心内側に隠して、
ホントは責任感じて
押しつぶされそうになってるのに。


それが気付いてるのに
私はどうしたらいいのか全然わからずに
その後もくだらない演技
続けることしか出来なかった。