想像もしてなかった話の展開に驚いて
眉を潜めながら
身体をギュッと縮こませた。


「確かにあなたの言う事は一利あるけど
彼女の声は商品にするには不安定過ぎる。
それがいいように転べばいいけど
もし逆ならうちの手には負えない。

だいたい今は
あなたたちのデビューに手一杯で
他の事に手を回す余裕なんてないの」


そこで彼女はひと呼吸置いて
ため息と共に更に言葉を続ける。

冷静に
でもチクチクと攻め入るような話し方で。


「うちは今あなたたちのバンドに
社運の全てを賭けてるの。
すでにこのプロジェクトには莫大な
お金と人員が掛かってる。
デビュー前のバンドにはありえないほどね。

それを霞ませるような出来事
私達が許す訳無いでしょう?」

「………」

「だから今回の事で
うちが受けた損害の代わりに
やっぱりケンの結婚は
一切公表しない事に決めたから」

「は?」


感情を押さえられないユウキの怒りの声が
この部屋まで大きく響き渡った。


「今の話なんだよ!
それとこれとは関係ねーだろうが!」

「関係あるわ。
バンド内の責任はバンド内で取ってもらう。
自業自得でしょう?

うちも遊びじゃないの
これはビジネスよ。
会社に所属するっていうのは
こういう事なの」

「俺は認めねーぞ。
ケンがそんな――」

「――あなたが認めなくても
本人は別に構わないって言ってたわよ」

「な……!」


思わず私も
俯きがちだった顔持ち上げた。

耳を凝らして会話の続きを聞く。


「だからこの件は昨日の夜
すでにケンに了解済みだって言ったの。

これに懲りたらこの先はくれぐれも
先走った行動は控えてちょうだい。
もっと自覚と責任を持って
この世界で成功したいならね」

「……」


この沈黙を彼女は肯定と取ったのか


「それじゃあこれ
昨日渡せなかった今後のスケジュール。
ちゃんと目を通しておいてね。

それと今日中にここ
引き払うんでしょう?
全然準備出来てないじゃない。
大丈夫なの?」