荷物を抱えて車まで戻ると
ユウはシートを軽く倒し
煙草をくわえながら車の天井を見てて。

その瞳はどこか虚ろな
悲しみの色。


今まで見た事ない彼の表情に
足が一瞬止まると
ユウは私の姿に気付き
ハッとした顔をした後
煙草を消し車の外に出て来た。


「思ったより早かったな。
荷物重いだろ?
ほら貸せよ」


バッグを渡しながらユウの顔を伺うと
いつもの飄々とした
ポーカーフェイスに逆戻りしてる。


さっきのは何だっんだろう。
それにあんなに悲しそうな目。


神妙な顔をしてる私を不思議に思ったのか
ユウは少し身体を倒し
私の顔を覗き込んでくる。


「どうした?
家でなんかあったのか?
ギターも貸せよ、ほら」

「ギターはいい。
練習、ここから直接行くから」

「あぁそっかもうそんな時間か。
スタジオどこ?」

「こっちの駅側の
海岸通りに面した……」


すると私の言葉を遮るように
手からギターケースを奪うと
二つの荷物を後部座席に放り込んだ。


「そこなら車で5分だ。
乗れよ」

「……ありがとう」


そこまでしてくれなくてもいいのに
断るいい口実が浮かばなくて
素直に車に乗り込む。


「どーした?
何か考え込んで」

「どうしてこんなに色々してくれるの?
絶対あんた普通じゃない」

「だから言ったろ?
嫌がらせだって」

「たかが嫌がらせに
あんなにお金使うなんて有り得ない。
第一、何も知らない他人
家に置くなんて怖くないの?」

「怖い?
俺がお前を?
ありえね〜。
じゃあお前は俺が怖いのか?」


そう言って前を向いてた顔
少しだけこっちに向けた。


……怖い?

自分で振った話題なのに
思ってもなかった事でしばらく考え込む。


「……何考えてるかわからないけど
怖いとかはない」

「ふーん、そっ。
ならいいじゃん。
二人だけの共同生活、
イロイロと楽しもーぜ!」