サクラの父は大企業の社長。
彼女自身も何度もこの家に訪れているから
この家の者のサクラへの信頼は絶対だ。


ついいつもの癖でいい子ぶって
面倒な嘘を付いてしまったかも。

ケイとの約束が
いつ果たされてもいいようにと
この家では自分を押し殺し
言われたことは何だって聞いてきた。

金髪の長い髪も
回りの目を気にしたのか
あの男に黒髪に染めるように命令されて
嫌々ながらも従ってきたから。

――全てはあの
『約束』のために。


ケイがいなくなった今
平穏に事を済ませたりとか
もう何の意味もなさないのに……。

さっきの嘘のせいで
この奇妙な出来事を
サクラに伝えなくては
ならなくなったかもしれない事実に
少し顔をしかめた。


そして急いでCDをバッグにしまい
ベッドサイドに立て掛けてある
ギターケースと共に両腕に抱え上げ
部屋の出口へと急いだ。


……もうこれで
この家に置いてきたものも
未練も
何も、ない。