それからハルトと二人
前座の2バンド一緒に見て
今はDown Setの出番までのインターバル。


ステージではスタッフが急ピッチで
楽器のセッティングをしてて

フロアでは期待に満ちあふれた観客達が
待ち切れない様子でソワソワ
叫び声をあげてる人も
すでにいたりして。

緊迫した雰囲気と
高まった興奮
そんな独特の空気がすでに出来上がってた。


そんな緊張感私にも伝染して
ピリピリとした感覚の中
パンツのポケットの携帯が
ブルブルと震えた。

ディスプレイの文字を見ると
『ユウキ』。


なっ!
アイツ本番前に何やってんの?


ハルトに断りを入れてから
急いでフロアを出て

受付のスタッフと
会社の人間が二人
煙草を吸いながら立ち話をしてるだけの
人けのないロビーで
携帯の通話ボタンを押した。


「もしもし?」

『あ〜よかった出て、
出てくんなかったら
俺どうしようかと思った』


力抜けるぐらい普通の声。
フロアでは彼の事待ってるファン達
あんな様子なのに。


だからちょっと強めの口調で


「あんた何やってんの!こんな時に
もうすぐ本番でしょう」

『大丈夫大丈夫
あと3分あるし。
だってお前にどうしても伝えたい事が
あったからさ』

「伝えたいこと?」


フロアからは相変わらずの叫び声。

私の背後からも
そして耳にあてた携帯からも
同じ声聞こえて
凄く不思議な気分になる。


『さっきのお前の演奏聴いたよ』

「う、うん」


携帯を持った指ピクリと震えた。


『まあまあかな、
お前にしては結構頑張った』

「フーン、それはどうも。
何よ、伝えたいことってそれだけ?」