そう心の中で決めた時


「アキ……」

「うん?」

「今日のお前の音マジでよかったよ。
思わずつられて
俺も全力でベース弾いてた。

バンドの最後をかざるに
相応しいくらいマジで凄かった」

「え?」


褒められた事より
遥かに引っ掛かる言葉。

最後って……


驚いて顔を勢いよくあげた私に
ハルトが緩く笑いかける。


「お前の考えてる事
俺が気付いてないとでも?
わかるよ、今までごまかしてきたけど
俺も同じ気持ちだからさ。

俺も今日で抜ける
このバンドから」

「……そっか」

「あぁ」


なんとなくだけど予感はあった。

前のユウキの言葉とは反してるけど
ハルトはいつまでもこのバンドで
やってくべきじゃない。


もっと違う音楽
彼はきっとやりたいはずだ。

その才能も技術も情熱も
全て彼は持ってるから。


……そして私は
今日全力でギター弾いてみて
初めて気がついたのは

演奏するたびに
今まで感じてた違和感は
お互い求めるもののズレから
生じたものだって事。


歌じゃなくギターを弾いていたからとか
そんなのが原因じゃなくて
私のやりたい音楽は
このバンド、サクラの声では出来ない。

彼女の技術や歌唱力とは全く別の理由の
彼女の一番いいところと
私のやりたい種類のものとは
全く重ならないから。

今のままだと
お互いの個性を潰し合ってしまう。


音に対してもっと貪欲になりたい。

妥協するんじゃなくて
自分が一番求めてる音、世界
それを表現したい。


まだまだ実力もないくせに
何考えてるんだって思うけど
ごまかしたり逃げたりするのは
もう嫌だから。

音楽と、自分と
正面から向き合いたい。


ケイの死を悲しみだけで
受け止めるんじゃなく
自分自身を変化させる
新たな一歩を踏み出すきっかけにしたい。


無駄には
絶対にしたくないから。


……とりあえず
サクラに伝えなきゃいけない事
もう一つ増えた。