Down Setのカバー曲も含め
計3曲の演奏が終り

のめり込みすぎて
訳わかんなくなってた意識
徐々に正常に戻っていくのを感じてると

最初の時とは比べられないほどの歓声と拍手
会場に上がってたのに気付いて
自然と笑みがもれた。


技術も何もかも
まだまだ全然足りないけど
今までで1番自分らしい音
出せた気がする。


ステージからはけるとき
フロアの左後方
ひときわ大きな叫び声を
あげてるヵ所に目を向けると

過去2回のライブに来てくれてた
見覚えのある女の子達
その姿が見えて

嬉しくて、嬉しくて
ステージ袖で
メンバー全員手の平をたたき合った。


――その後は
そのままライブを見に行くと言う
サクラとコウと別れ
ハルトと二人楽屋に向かった。


コウに頼まれたドラムスティック
彼のかばんに突っ込んで
ギターをケースにしまい終わった時


「お前何かあった?」

「え?」


ガランとした薄汚い楽屋の部屋に
私の驚きの声が上がる。


「アキ、昨日練習の後
何かあっただろ」

「なんでそう思うの?」

「だって今までと全然音が違う」


強い口調でそう問い掛けるハルトの顔
しばらく無言で見つめた後
静かに口を開いた。


「うん、そうだね。
結構色々あった」


無意識に左手首のブレス
右手でもて弄び
銀のプレートの文字確かめるように
人差し指で数回往復した。


「フーンそっか」

「うん、そう」


静かに呟いて、軽く息を吐いてから
床の上しゃがみ込んだハルトのすぐ隣に
膝を抱えるみたいにして座り込む。

落書きまみれの汚い壁に寄り掛かると
固さと共にひんやりとした冷たさが
じんわりと背中に伝わって来た。


この前みたいに詳しくは聞いてこない
ハルトの優しさが染み込んでくるみたいに
胸に温かい気持ちが広がる。


うん、落ち着いたら
ハルトには全部話そう。

私の過去
ケイの事
今まであった事の全て。