狭い会場のさらに狭いバックステージでは
あり得ない数の人間が行き来してて
それぞれがイベントの準備にとりかかり
緊迫感とあわただしさがあふれた雰囲気。


楽屋でメンバー全員、スタッフの人と
軽く打ち合わせをした後
出演バンドが順番でサウンドチェックをして
今は出番までのわずかな待ち時間。


一つの部屋に前座の三バンド
ぎゅうぎゅうに押し込められて

でも当たり前だと思ったから
鏡を見ながら少し愚痴を漏らすサクラを
宥めたりなんかする。


しばらくしてメンバー内で
最終的な打ち合わせをしてから
ステージの袖に向かった。


薄暗い会場ではPAのかすかな音楽の中
狭いフロアに押し込められた
客達のざわめき。

それに今日何人も廊下ですれ違った
ギョーカイ人らしい人たちも
フロア後方で腕を組んで
ステージを眺めてる。


雑誌の記者とかテレビ関係者
会社の偉い人達
こんなとこまで呼んでて

本来なら東京でやった方が
メンバーが楽器一つ持って行くだけだし
よっぽど簡単でお金だって掛からない。


それでもわざわざこんな場所を選んでるのは
バンドの意向を汲取った会社側の配慮で
それだけの権限を
Down Setが与えられてるって事。

デビュー前のバンドに普通ならありえない。


彼らに対する事務所の期待の大きさが
それだけでもよくわかる。


それに出演バンドでさえ
むやみに接触することを禁じられてて
朝別れたっきり
ユウキの姿は一度も見ることはない。

こんな狭い会場でも。


『Down Setはトップになる』

確信をもったハルトの言葉
ふと思い出した時
スタッフの人の声が聞こえた。


ドクンと更に高くなった胸の鼓動。


PM 5:00。

私たちのステージが始まる合図。