「……はい」


身構えるように声と身体が強張った。

けれどゆっくりと開かれた
扉の向こうにいた人物をみて
すぐにホッと胸を撫で下ろす。


「アキさん?」

「都さん」


――西条 都(ミヤコ)さん。
私の母の妹であの冷たい目をした男の妻。

そして戸籍上現在の私の母。

れっきとした姉妹なのに
私の母とはまるで違う
柔らかく穏やかな空気をまとった女性。


都さんは彼女の雰囲気にぴったりな
ふわふわと綿菓子みたいに
揺れる髪に手をあてて
ふわりと私に向かって微笑んだ。


「アキさん。
朝から姿が見えないから心配してたのよ。
どこに行ってらしたの?」

「あ、すみません。
ちょっと友達と約束があって」


そうしてさりげなく包帯の巻いた左足を
右足の後ろにやる。

彼女は全く疑いのない目で
「そう」と頷くと
視線をベットの上のバッグに移した。


「あら?どこかにお泊り?
サクラさんのところかしら?」


一瞬ギクリとしながらも慌てて笑顔を作る。


「はい、彼女の両親
しばらく旅行で留守にするから
その間泊まりに来ないかって頼まれて」

「そう、そう言う事なら仕方ないわね。
楽しんでいらっしゃい」

「ありがとうございます」


満足そうな顔をして部屋から出ていく
彼女の背中を見送った後
ホッとしたように息をついた。