朝出て来たままに少しだけ散らかった
自分の部屋に駆け込み
大きめのバッグに色々な物を詰め込んだ。

でもどうしても持って行かなきゃ
いけないものなんてそんなになくて
パッキングはすぐに完了。


最後に足をCDラックの前へ。

大量に並べられた棚の
一番上の左側に立て掛けられた
CDを手に取った。


黒い壁にドアが一枚だけあり
少し開け放たれたドアの隙間から
溢れんばかりの光が差し込んでいる....
そんなCDカバー。

黒い壁の片隅にグレーで記されてる文字は
Deep End:No Heroes....

そう、これは
ケイのいたバンドDeep Endが
昨年の8月22日にリリースした
彼らのデビューアルバム。

――そしてラストアルバム。


ケイがいなくなった今
バンドが活動を続けていくのは
どうしたって出来ないだろうから。


手に取った黒いCDカバーを
そのまま胸に抱きしめる。


ケイは何故このアルバムに
“No Heroes”と
タイトルをつけたんだろう。

それにこのカバーの意味は何?

この理由をもうケイから
聞く事は出来ないんだ。


心が再び闇に侵食されはじめて
ごまかすように頭を数回振る。


やっぱりこの家にはいられない。

そう思った時
突然ドアをノックする音。