「そんな机上の空論は聞きたくない。
バカバカしい。

その何とかって男、彼はまだ未成年だ
いくら二人で何を決めようとも
そんなもの子供の戯言だ
世間の常識から逸脱してる。

ほら、もう時間がない、
手間をとらせるな」


そう言いながら
高そうな時計ちらりと見た彼に
私はありったけの声で叫ぶ。


「イヤ……いやだ。
私は何処にも行かない!
ケイと一緒にいるって決めたもの!

常識とか世間体とかどうでもいい。
私はただケイと二人で暮らしたいだけ。
誰にも迷惑はかけない!」

「……全く母親に似て強情だな
嫌なところばかり受け継いで。
そういう事なら仕方がない」


すると彼は後ろに控えてた男達に
目配せすると
彼らはベッドの両脇に立ちはだかり
私の身体に影を作る。


「ちょっ……何するの!
やめて!離して!
離してってば!」


その叫び声はただ虚しく響くだけで
義務的に動くその人達に
シーツごと包まれて
身動きが出来ないまま
一人の男の肩に担がれた。


このまま日本に連れ帰されるなんて
そんなの冗談じゃない!


喉が裂けるくらい
思いっきり声をあげて
めちゃめちゃに手足を振り回す。


でも全く効果がなくて
ズンズンと廊下突き進んでて
回りの人、何事かって集まって来たけど
誰ひとり助けてくれない。

こんなに沢山人がいるのに
子供が駄々こねて騒いでるだけって
同情の目向けてるだけだ。


何も出来ない自分への怒りと
回りの人への勝手な失望で
悔しくて、憎くて
血が滲むぐらい唇を噛み締める。


「抵抗しても無駄だ。
病院関係者にも警備員にも
全て手を回してある。
お前に手を差し延べる者は
どこにもいない」


相変わらず上から物を言う彼の話し方に
嫌悪感を感じ
さらに吐き気までしてくる。


こんな風に私の意志丸っきり無視されて
誘拐みたいな真似
そんなの絶対に許せない!
許されるわけない。