「久しぶりだな。
今更こうして会うとは思わなかったが
本当に君の母親には呆れて言葉もでない。

勝手に家を飛び出したかと思ったら
あんな事件を起こして
とんだ手間かけさせて。

退院の手続きはもうすんだ
日本に帰るから早く支度しろ。
フライトの時間もある」


え……?


事務的に語られる彼の言葉が
全く頭に入っていかなかった。

――いや、受け入れたくなくて
理解するのを反射的に拒んだんだ。


だってこの人今何て言った?
……日本に帰る?


「嫌……」


シーツの上で伸ばしてた足
抱えるみたいに縮ませて
声を震わせた私を見て
彼は呆れたようにため息をついた。


「何を言ってるんだ?
君に選択肢はない。

本来なら君の存在なんて
見捨てられても仕方がないのに
お義父さん――君の祖父に当たる方が
引き取ると言ってくれたんだ。

……とは言ってもあの一族は大きな家だし
世間体から君の事は
私が引き取ることになったのだが。
全くとばっちりもいいとこだ」

「だ、だったらそのまま
見捨ててくれても構わない!
私はここに残ります。

あ、兄と暮らしていくので
日本には帰りません!」


威圧的な彼の回りの空気に
負けないように声を上げたら
その人は冷めた目つきを変える事なく
更に言葉を続けた。


「だから君に選択肢はないと言っただろう。
その兄とかいう人物なら
祖父母の家に引き取られるのが決まってる。

戸籍上だけなら君にも同じように
祖父母に当たるのだが
どこのお人よしが
自分の息子を殺された女の娘を
引き取ろうと言うか。

彼らは君の親権者になることを拒否した。
君はもううち以外
どこも引き取り手がいない。
わかったらさっさと準備しろ」


語られる事実に
訳がわからなくて頭がガクガクする。

親権って何?
そんなの知らない。

だって私達昨日この場所で
二人で生きていこうって……。


「イ、イヤです!
私はケイと暮らす
そう約束した……」