そう言って悔しそうに頬を掻くケイの服
よく見たらマイクの物で
少しだけ違和感を感じて。


「フフッわかった」

「……お前何笑ってんだよ」

「ううん、別に。
だってマイクのお母さん
お料理上手なんだもん、
嬉しくって」

「そうだよな〜
お前と違ってあいつのお袋
スゲー料理得意だもんな。

いつだっけ?
お前が作ったエイリアンみたいなケーキ
無理矢理食わされたの」

「う、うるさいな。
これからはちゃんと料理覚えるよ、
マイクのお母さんに教えてもらう」

「ハハッ、そうしてくれると俺も助かる。
……っとお前が目覚ましたって
先生に言ってくるから
ちょっと待ってろな」

「ウン、わかった」


――端から見たら
夢物語だとか、ままごとみたいだとか
呆れて鼻で笑われるかもしれないけど

たった18歳のケイと13歳の私が
二人きりで生きていく未来。

暖かな生活を願い、誓い合ったこの日
私はとても幸せだった。

確かに色んな不幸があったけど
ケイと共に歩んでいくこの先の道は
明るい光に照らされてると思っていた。


でもそれがはかなくも砕け散ったのは
すぐ翌日の事――。


ケイが腕の治療をしてる間
マイクが持ってきてくれた雑誌を
暇つぶしにパラパラめくってたら
ノックもなく
ガラリと病室のドアが開いた。


その音に頭を上げた私は
驚きで身体が固まり
雑誌のページをめくる指が止まる。


そのままズカズカと
部屋に入って来たのは
黒いスーツを着たガタイのいい男二人と
仕立てのいいグレーのスーツを着て
眼鏡を掛けた中年の男。

その眼鏡の顔には
微かだけど見覚えがあった。


私の母の妹の夫。

私にとっては叔父に当たる人で
この髪と瞳の色を人一倍蔑んだ
冷たい目をした人物。

過去連絡を取ったこともなければ
彼の名前すらよく知らない
その程度の付き合いのこの人が
いったい何故こんな場所に現れたのか……。