「ケイ?」

「ん?」

「右手は?
右手の傷はどうなった?」


私の前にいるケイの右手は
しっかりとギブスで固定され
服の下の右肩には
きっと包帯が巻かれてるだろう膨らみ。


ケイは少しだけ笑って


「大丈夫、骨はちゃんとくっつくってよ。
日常生活に支障はないから心配すんな。
それでなくても俺器用だから
左手だけでも生きていけるし」

「………」


そうじゃなくて
ベースはもと通り弾けるのか
聞きたかったのに……。

でもすぐにわかる。
語られないことが答えなのだと。

そう、きっとベースはもう弾けない。
あの時ケイが言ったように。


やっぱり、許せない……。


頭の中真っ黒い気持ちでいっぱいになって
俯いた私の手の甲に
ケイの左手が重なった。


手首には私があげたブレス。
プレート部分はあの傷の深さを物語る
血が乾いたあとが所々残ってる。

ケイは手首に向いた私の視線に気付いて


「これ治療に邪魔だからって
勝手に左に移されてさ。

確かに俺は今回の事件で
色んなもん無くしちまったけど
俺にはこのブレスと
あとお前が無事だったから
別にそこまで悲しくないんだよな。

親父はもういないのに
驚くぐらいにすっきりしてる」


「これじゃあ親父に怨まれるな」
なんて悪そうな顔をするケイに
思わずクスクス笑いが込み上げる。


そう、私もケイと同じ気持ちだ。

酷い子供だって
罵られても当たり前なくらい
安堵してる自分がいる。

ケイが生きてるなら別に何でもいい。
他の何を犠牲にしても構わないんだ。


「……アキ」

「何?」

「もう親父達いなくなって
凄い不安だろうと思うけど
お前には俺がついてるから。

他の何を犠牲にしても
お前の事絶対守るから
二人で生きていこうな。

お前が側にいてくれれば
俺何だって出来るような気がするんだ」

「うん、大丈夫。
私もケイが側にいてくれれば
全然寂しくなんかない」

「……っても暫くの間は
マイクの家に世話になるけどな。
あいつらの両親も
そうしろって言ってくれてるし」