「そうよ、あの女。
この世にいない癖に
いつまでもジェフの中に住み着いて。

彼ったら私が側にいるのに
こんなに彼だけを愛しているのに
いつもいつもステージに上がる前
あの女の写真にキスなんて……
私はここにいるのにっ!!」


悲鳴にも近い大声を発した後
前屈みになってた身体持ち上げて
ふらつきながらも壁に手を当てる。


そうしたらダウンライトの真下に立った
彼女の深紅のドレスに
所々どす黒く見える何かのシミの跡。


これは多分さっきの
ケイの傷のせいじゃなくて――


「まさか……!」


最悪の出来事が浮かんで
思わず声を発した私に


「言ったでしょうアキ。
全てリセットするって。
……もう何もかも終わりよ。
私が終らせるの」


そう独り言のように呟いた彼女は
もう何の興味もなくなったかのように
私達に背を向けて
壁に手を付きながら
部屋から出ていった。


その瞬間崩れ落ちるように
床に膝を付いたケイ。


「クッ、痛っ……!」

「ケイ!」


傷口を押さえた彼の左手の間からは
押さえる事出来ない血液が
隙間から零れ落ちてる。


傷が深すぎる。


ジッと不安気に腕を見つめる私に
ケイは安心させるように
軽く笑みを見せると

額に流れる汗を拭った後
再びゆっくりと立ち上がった。


「ケイ、やめてよ!
これ以上無茶したらダメだよ!」

「俺の事ならどうでもいいから
アキ、とりあえずは自分の心配だ。
あの女がいつ戻ってくるかもわかんねぇ。
早くここから出ないと」

「で、でもその傷!
あとジェフだって
今ならまだ間に合うかも!」

「イヤ、
多分親父はもう駄目だろうな。
それに、もしそうじゃないとしても
俺はお前の方が大事だ」

「ケイ……」


どうしていいかわからず
何回目かわからない彼の名前を呟き
涙を堪えようと唇を噛み締めた私を

ケイは優しげな目で見つめた後
携帯のところまで歩き
左手でそれを拾い上げた。