負けそうになる私の心
奮い立たせるように
ケイが握りあった掌に力を込めた。


「当たり前だろう!
お前はアキの世話まったくしねーし
アイツはアキの父親なんだから!」

「……そう、
父親だからいけないのよね。
その金色の髪と灰色の瞳……。
なまじそんな物持ってるから
あの人があなたの事
気にかけるのよ」


そう呟いてどこからか取り出したのは
薄暗い中でもキラリと
存在感を主張して光る銀色のナイフ。


それを見たとたん
これから自分に起こるであろう恐怖に
全ての思考が固まった。


熱いはずないのに
首筋を一筋の汗が流れる。


「テメエ!アキに何するつもりだ!!
こいつに傷でもつけてみろ!
ただじゃおかねえからな!」


ケイが怒鳴り声を上げて
手錠を外そうともがく
金属音が聞こえたけど

私は全く身体の力が入らなくて
目の前に向けられた鋭い刄先を
凝視する事しか出来ない。


「このクリスマスだって
せっかく二人っきりで
過ごせると思ってたのに
今年は家族で過ごそうとか、

それにあの人毎晩毎晩
あなた達とコソコソして……」

「それは違う!
俺達が一緒にいたのは
アキがあんたに自分の歌聞かせたいって
親父と三人で練習してただけで――」

「あらそうなの?
そんな事、全然知らなかったわ」


彼女はふと表情を和らげて
……でもすぐに


「生憎だけどアキ
あなたの歌になんか全く興味ないわ。

子供の頃バイオリンをやってたのだって
御祖父様に言われて仕方なくだし
本当は爪が割れるし
嫌で嫌で仕方がなかった。

……でもジェフのピアノは別よ。
彼以外から紡がれる音なんて
騒音以外の何ものでもないわ」


彼女はまるで虫けらでも見るみたいに
私の顔を睨みつけ
右手で持ったナイフの刄
左手の細い指で撫でるように
弄びながら吐き捨てる。


……本当に私はバカだ。

この人に、こんな人にいったい
何を期待してたんだろう。

今まで散々裏切られてきたじゃない。


それなのにあんな夢を見て、
悔しくて悔しくて
そんな自分に涙が出る。