「目覚めはどう?」

「………」


あまりの衝撃に
何も言葉にできないケイと私。


母は真紅の柔らかい素材のドレスを翻し
ゆっくりと私達の前まで歩いてくると
腕を組み冷めた目つきで見下ろした。


「本当よく寝てたわね。
夕食のスープに入れた睡眠薬
よく効いたわ。

ベッドから落ちても何しても
全然目が覚めないんだもの。
いい加減待ちくたびれたわ」


えっ!?


「……睡眠薬って
何でそんな事」

「決まってるでしょ?
抵抗されたら色々と面倒だもの」


今の話しを聞く限り
私たちに手錠をしたのも
間違いなくこの人で――

いったい何をしようっていうの?


先の見えない恐怖にゴクリと喉を鳴らすと
力無く床の上に置いてた右手に
ケイの腕が重なる。


握られた彼の掌の温もりに
心が少しだけ和らいだ。


「ふざけんなテメェ。
こんな事してただで済むと思うなよ!」

「あら、ずいぶん威勢がいいのね?
でもそんな状態のあなたに
いったい何が出来るの?」


ケイが奥歯を噛み締め
そんな彼を勝ち誇った顔で眺めた母は
ゆっくりと視線を私に移した。


そのあまりに冷たい眼差しに
身体かビクリと震える。


「アキ、今までは色々
役に立ってくれたけど
最近はちょっと限度を越えてるわ。

どうやってジェフに
取り入ったか知らないけど
いい加減目障りだわ。

散々いい暮らしさせてあげて
育ててあげた恩も忘れて
そういう悪い子は
お仕置きしなきゃいけないでしょう?」


赤く艶やかな彼女の唇が妖艶に歪み
憎悪を持った苦言の言葉
尽きる事なく吐き出していく。


「……それでなくったって前から彼
“アキにもっと優しくしてやれ”とか
“アキに電話でもしたらどう”とか
“アキは素直ないい子だ”とか

“アキ、アキ、アキ”
って煩わしい」


冷たいだけだった無表情の彼女の目が
だんだん殺意を持った
怒りの色に変わっていく。


背筋が凍るような感覚。