赤い顔俯かせながら呟くと
ケイは満足そうに笑い
手を引っ張って
私をその場に立ち上がらせた。


「よし!
それなら善は急げだ。
早速今からやるぞ!」

「えぇ!今から?
ちょっとまってよ!」

「待てない。
今すぐやるって俺が決めた。
……そうだな、何か目標があった方が
上達早いよな。

アキ何かある?
例えばこの曲歌いたいとか
ステージに上がってライブしたいとか
誰かに聞いてほしいとか」


何気なく言ったケイの提案に
少し頭を過ぎったことがあって
瞳がかすかに揺れた。


……でもこんな事言えない。


「どうした?眉間にシワよってるけど。
何か希望あんのか?
遠慮しないで言ってみろ」


ハッとするぐらいの
優しげな眼差しと声色に
怖ず怖ずと口を開く。


「……も、もしも叶うなら
お、お母さんに
聞かせたい」

「お前……」


ケイが驚いて息を飲んだのがわかって
なんてバカなんだろうって
自己嫌悪に陥る。


だって当たり前だ。

母親が私に対して
どういう態度で接してたか
ケイは誰よりもよく知ってるから。


こんな風に思うなんて
自分でもおかしいってわかってる。

わかってるけど……。


「……ケイは来なかったけど
先月トロントでジェフのコンサート
見に行ったじゃない?」

「あぁ、そういえば
そんな事あったな」

「お母さん、ジェフの前では
いつもニコニコしてるけど
あの日は特別楽しそうだった。

機嫌も凄くよくて
話も少し出来たんだけど
お母さん昔バイオリン弾いてたんだって。
音楽聴いてるときが
1番楽しいって言ってた。

だから私も音楽やってるとこ見せたら
もしかしたら私の事
少しは興味持ってくれるかなぁって」