電気をオフにしたミニスタジオ。

部屋の巨大なスクリーンでは
ボリュームが低く抑えられた
人気バンドのライブDVDが再生されてて

こちらに背を向け
だらしなく床に座り込んだ体制で
スクリーンを眺める彼の後ろ姿が
映像内のライトの色が光るたび
浮き上がったように見える。


思った通り
目に見える涙は流してない。

……流してないけど
悲しんで、傷付いてる。


今にも折れそうな彼の心が伝わって
堪え切れずにその背中に抱き着いた。


私より何倍も広く逞しい背中が
余計に悲しみを誘う。


「オイ冷てーよ、アキ」

「外超寒い〜
凍えたからあっためて」

「……それならもっと
手っ取り早い方法あるけど?」

「あっ!ケイ
今えっちな事考えてる。
この変態!!」

「それがわかるお前も
十分変態だから」

「え?
意味わかんない」

「……言ってろよ」


ケイは私の腕をゆっくりと外し
二人で向かい合った体制でクスクスと笑う。


普段通りに話すケイの口調が
余計痛々しく感じて
我慢出来なくなって
ぼやける視界の中の彼を見つめたら

ケイは私の髪に付いた水滴を
細長い指で優しく払ってくれた後
涙をすくうように
目元に唇を落とした。


――触れた場所が熱い。


ピリピリとした緊張感が漂う中
数秒間無言で見つめ合った後
ケイはふわりと私を抱きしめて


「……ごめん」


とだけ呟いた。


その言葉の別の意味に
胸が張り裂けるほど痛くなる。


深い渓谷の間にかかる
壊れかかった橋の上

綱渡りみたいにして
進もうとしてた私たちを
現実の世界に引き戻すその一言。


……いいんだよ、ケイ。


そんな風に謝る必要なんか
決してないから――。