「ケイの母親が
死んだ理由って知ってるか?」

「病気でって聞いたけど」

「そう、ケイの母親は
元から身体が弱い人でさ
ケイを産んでから更に病気がちになって
いつも寝たきりの状態で。

子供だったケイの世話をするのは
ほとんど回りの人間で
アイツは殆ど
母親に抱きしめられた思い出もない。

父親のジェフはその頃すでに
ピアニストとしての才能を認められてて
今と同じように長い間
家を開けることが多くて
その淋しさからか
彼女の身体はますます弱っていった。

でも別に二人の仲が
悪かった訳じゃないんだ。
ジェフはとても彼女を愛してたし
彼女ももちろんそうだった。

――それでケイが三歳の時の冬
とうとう彼女の状態がやばくなって
生死の境をさ迷いながらも
譫言のように
ずっとジェフの名前を呼んでた。

でもその時ジェフは海外でツアー中で
彼の所属するエージェントの連中は
ジェフが帰国する事を
決して許さなかった」

「そんな……」


思わずそう声を上げてしまった私に
マイクは同意するように頷いた後
また続ける。


「……でもまあ仕方のない事かも
しれないんだけどさ。

ジェフの事を待っていてくれる客がいて
色んな準備もきっちりされてるから
今更それをキャンセルなんて
出来ないんだろうって。

それでも予定している公演が終わって
ジェフは急いでこっちに戻って来たんだけど
――雪が凄くってさ

フライトは予定より遥かに遅れてしまって
結局彼女の死に間に合わなかった」

「………」

「ケイはさ、幼いながらも
自分の母親がそうやって
淋しそうに死んでいくのを
目の前で見てるから
どうしても許せなかった。

彼女をそんな状況に追い込んだ
エージェントの連中や
音楽業界そのものの存在を。

……まあそんな感じでさ
今ケイがしてるのは
そういう世界に対する
ひそやかな反抗ってとこだろうな」


……そんな事が
あったなんて……。