目的の人物は部屋の中央の
オフホワイトの壁に寄り掛かって
いつもの如くギターを胸にかかえ
音を紡いでいたようだった。


その体制のまま少しだけ驚いた風の黒い瞳
眼鏡の奥からこちらに向けたマイクは


「何?どうした?」

「ケイとヴィンスが!」


荒い呼吸の合間にそれだけ言うと
マイクは全てを察したように
ハッと顔を強張らせ

ギターをその場に置き
私の横を駆け抜けて行った。


その風圧で髪がフワリと舞い
ヘナヘナとドアの縁に
寄り掛かるようにして座り込む。


……凄く心配なはずなのに
気力が全く残っていなくて
それに再びあの場面を見る勇気もなくて
マイクの後
追い掛けること出来ずにいると

さっきのシーンがリアルに
頭の中で蘇ってくる。


――あんな二人見た事ない。


ケイだけじゃなく
優しさの固まりみたいなヴィンスが
あんなに声を荒げるなんて初めて見た。


それにケイのあの目。


どうして!?って答えのわからない疑問
ただ自分に問いかけ続けていたら
さっきからだいぶ時間がたったのみたいで
マイクが部屋に戻って来た。


私に何も声をかける事なく
横を通り抜けて
元の場所に戻ろうとするマイクの背中
急いで追いかけた。


「どうだった?」

「――大丈夫、たいした事ない。
ヴィンスはまあ、病院行かせたけど
骨とかはどこも折れてないし
心配いらない」

「病院って……
じゃあケイは?」


恐る恐る尋ねると
マイクは抱えたギターの弦弾きながら


「あいつならもっと心配いらない
ほら人間じゃないから」

「なっ!
こんな時に何その冗談
信じられない!」

「別にふざけてないよ」


思わずマイクの事睨み付けた私の顔
正面に見据えて
彼は意味深に目を光らせる。


訳、わからない。

マイクが今話したことも
ケイがあそこまで怒ったのも。