――――――


『一緒に住め』

なんて俺の無謀な提案を受け
まだ焦点の合わない目をして
床にへたりこむアキに


「昼飯買ってくるから
ちょっと待ってろ」


と声をかけて急いで家の外に出た。


スニーカーの踵を履き潰したまま
後ろ手で黒く重いドアを閉める。

そしてドアに寄り掛かり
背中を滑らせるように
マンションの通路にしゃがみ込んだ。

写真をもった右手を緩く左手と合わせ
額の前につけると
目を固くつぶり
――深く深く息をはいた。


ズキズキと頭が痛むのは
寝不足のせいばかりではないと思う。


何言ってんだ俺。

……でも
こうするしかなかったんだ――。


しばらくそのままの体制でいると
ジリジリとうだるような暑さが
身体全体を覆い
じんわりと首筋に汗が滲み
不快に軽く舌打ちをする。

そして右手に持った写真に目をやった。


モノトーン調の部屋の中
寄り添って笑顔を見せる男女。

女は金髪のストレートヘアに
灰色に光るガラス玉のような大きな瞳
スッと通った鼻筋に紅い唇
透けるような白い肌。

美少女と形容するしかない
今よりも少し幼いアキの姿。

今の黒い闇に覆われた彼女とは違い
幸せに溢れたはじけるような笑顔。


その隣にはカメラから視線を外し
軽く口元を歪ませるように笑う男。

無造作で目にかかるぐらい長めの
ダークブラウンの髪
彫りの深い
明らかに外国の血が流れた整った顔付き。

神経質そうな鋭い瞳は
アキと同じ灰色で
その中はどこか温かな光をみせる。


年の離れたカップルに見えなくもないが
でも二人が纏う空気は明らかに同じ物。

お互い心を許しきった軟らかな表情。


その写真をしばらく眺め続けると
俺の目と頭の間の位置から
何か込み上げるような感覚があり

慌ててごまかす為に立ち上がり
ポケットから取り出した財布に
写真をにしまい込む。

そしてまっすぐ前を見ながら
足をエレベーターに向けた。


――――――