他にも何かないかと思って
車の中色々探したけど
これ以上は何も見当たらなくて
唇を噛み締めて考え込む事数秒。

その時ハタと気付いて
花びらを握ったまま
転がるように外に出て
車のトランクを開けた。


入ってたのはスペアタイヤと
小さな茶色の紙袋。


導かれるまま袋の中を開けると
見えたのは一枚のCDと丸まった紙の束。

そのCDを手にとったら
眉を潜めた私の瞳に飛び込んで来た
黒いCDジャケットの写真に
ドキッと体中が震えた。


……これ

何でこのCD
ユウキが持ってるの!?


もっとちゃんと確かめようと
更に目を懲らしたけど
街灯の光だけじゃ頼りなくて

色々詰まってる紙袋ごと掴んで
急いでマンションのエントランスに走った。


はやる気持ちを抑えようと胸に手を当て
深い呼吸をした後

さっきよりも遥かに明るくなった照明の下
もう一度CDを手に取る。


手が、身体中が
何かの予感で震える。


……ああ、やっぱりそうだ。

黒いカバーのCDは
ケイのバンドDeep Endのデビューアルバム
『No Heroes』。

更に紙袋を開いて紙の束を開くと
紙に書かれていたのは
バンドのスコア。

そしてその紙の上部に走り書きされた
“Running From Lions”の文字。


しっかりと両手で掴んだ紙の
中の音符を目で追ってみても
間違いない……

この曲はさっきのアルバムの
一曲目に収録された
Deep Endの曲に他ならなかった――。