その後も寝室の中
手当たり次第に探したけど
それらしい物なんか一つも見つからず

途方にくれたように床に座り込んで
上半身だけベッドにもたれ掛かった。


寝室じゃないとしたら
あるのはリビング?


でも普通なら
大切な物隠すのは寝室って決まってる。


……ケンの言ってた事は
本当なのかな?

もしかして
ただ私をからかっていただけとか?


でももし彼の言葉が全部嘘なら
彼はベーシストじゃなく
俳優にでもなるべきだ。


スプリングでひそかに視界が揺れる中
白い壁に掛かったガラス性の時計の針は
9と4の数字を指す。


コチコチとひそやかだけど
規則正しい秒針の音に耳を傾けていると
昼間ハルトに言われたことが
頭に浮かんできた。


“ユウキは東京に行く”


そう、だよ。
この奇妙な共同生活だって
ライブが終わるまでって
期限付きでスタートしたんだった。


私たちのこの不確かな関係は
説明できる言葉もないし
ましてや未来なんてあるはずもない。


期限が過ぎればそこで終わり
彼はこの土地から離れる
それが全てだ。


流れる理由なんて知りなくもない
無意識に零れ落ちてくる涙
手の平で拭ったら

部屋の外から届いてくる
私の携帯の着信音。


今は何かしていないと
どんどん涙が溢れてきそうだったから

慌てて立ち上がって
玄関に放置された
鞄の中から携帯を取り出し
相手も確認しないで通話ボタンを押した。