「アキ、お前
アイツの事好きなの?」

「べ、別に私はそんな……」


普段のハルトらしくない疑問
前置きもなくぶつけられて
思わず答えが上擦った。


バカみたいに慌てた私と対極の
いつも通り冷静なハルト。


な、何でそんな事いきなり。


「お前もわかってると思うけど
アイツ、てかDown Setの奴らは
明日のライブの後東京に行く」

「………」


東……京……。


背筋が凍るくらい冷たく
抑揚のない彼の言葉が
心に刺々しく突き刺さる。

無意識に膝の上の掌を
固く握りしめた。


「昨日も言ったと思うけど
メジャーに行ったら
あいつらきっとビックになる。

特にユウキは凄い存在になるよ。
アイツの歌にみんな夢中になる。
……俺らとは世界が違う
いくら必死に手を伸ばしても
今の俺らには到底届かない
遠い場所に行くんだ。

お互いの気持ちがあればいいとか
勢いに任せて突き進んでも
きっと後で現実を知って後悔する」

「そ、そんなの
別に私は彼とどうこうなりたいなんて
考えたこともない」


この言葉に嘘はないはずなのに
息が出来ないほど胸が痛むのは
どうしてなんだろう。


唇を噛み締めて
思い詰めたように一点を見つめる私を見て
ハルトはハッと軽くため息をついた。


「……今俺が言った事
よーく覚えておけよ。
そうなった時1番傷付くのは
お前なんだから」


そうして
「練習前に楽器屋行きたいから
付き合って」
って伝票持って立ち上がったハルトの背中
本当は追いかけなきゃいけないのに

足が鉛みたいに重たくなって
身体に全く力が入らなくて
目の前の温度の無くなった風景を
眺め続ける事しか出来なかった。