驚いて顔を上げると
ハルトは私の視線から目を背けて
眼鏡のフレームに触れながら
つまらなそうに続ける。


「なんか話が長くなりそうだし
この後練習であんまり時間ないし
面倒だからいいよ。

……つーかさアキ
そんなに何でも話さなくてもいーから。
誰だって一つや二つ秘密ぐらいあるし
俺だってお前に話してないこと
それこそ山のようにあるし」

「そ、そうなの?」

「ああ、当然。」


そうやって真面目に頷く彼の言葉
どこまで本当か分からないけど

実際には時間なんてまだたっぷりあるし
今のは私の事
気遣ってくれた為だって思った。


「……ありがとハルト
色々気持ちと環境が落ち着いたら
全部話すね」

「……別に俺はどっちでもいいけど
それに俺の秘密は
絶対お前には教えないし」

「ふふっ、いーよそれでも」


水滴がついたグラスに手をやりながら
クスクスと笑った私に

ハルトは少し顔をしかめ
店の茶色い壁睨み付けるみたいにして
視線反らし続ける。


本当……ハルトは
どこまでいってもハルトだ。


「……話戻すけど
お前ケンに言われた通り
アイツの部屋漁ったの?」

「えっと……してない」

「どうして?
タイミングなかったとか?」

「タイミングなら沢山あったよ。
昨日寝たのも部屋違かったから
夜寝室調べること出来たし
今日だって朝早くに出かけていったから
その後は家中漁ろうと思えば出来た」

「じゃあ何で」

「だ、だって人の家
勝手に漁るなんて……。
だったら本人に直接聞こうかなって」

「そんな綺麗事言ってる場合な訳?
現にお前昨日の夜聞けてないし
それに聞いて簡単に教えてくれるようなら
ユウキだってお前に
もう話してるんじゃない?」

「……そ、そうかな」

「まぁ俺には関係ないし
どうするかは自分で決めなよ」

「わか……った。
あとね、ハルト――」

「何?」

「ユウキとの事やっぱりサクラにも話すよ。
もっと早く気付くべきだった」