冗談っぽく首を竦めながら
廊下の白い床に視線を送ったケンは
すぐにハッとしたように
顔を俺の方に向けた。


「そういえばアキは?
どこいった?」

「ああ、アイツなら
腕に付いたお前の血
洗い流しに行ってる」

「ふーん、そっか」


そうして安心したように
投げ出した足で
何かのリズムをとるケンに
俺は少し強めの口調で問い掛ける。


「で、お前
どういうつもりだ?」

「ん、何が〜」

「とぼけんな。
自殺しないとかいう約束
アキにさせたんだろ?

そんな風に脅迫じみたまねして約束しても
何の意味がないだろが。
アイツが自分から
生きたいって思わなきゃ」

「……さすがのお前も
大事な女が絡むと普段の冷静な判断
出来なくなるんだな」

「どういう……事だよ」


ケンから視線外さないまま
眼光を強めた俺に
ケンは軽く笑って更に言葉を続ける。


「いいか、本当に死にたい奴は
写真人質に取られようが
ライブの予定があろうがなかろうが
構わず勝手に死ぬだろうよ。

でもアイツはそれをしてない
イコール死ぬ気なんか
さらさらねーって事だ。
自分ではまだ
気付いてないみたいだけど。

――俺が思うに
あの日海岸でお前の事
見つけなかったとしても
アキは多分死ななかった。

きっとギリギリで
アイツはちゃんとこっちに戻ってきたよ」


言われてみれば確かに
そうかもしれないけど――


「――それじゃあお前は
何であんな約束?」


コイツの言ったことが本当なら
自分の手犠牲にしてまで
あんな事する必要ないだろうが。