ビール瓶とか段ボールが
積み上げられた荷物の陰に
ケンと二人小さくなって
荷台にしゃがみ込む。


トラックのおじさんに貰った
綺麗なハンドタオル
傷口にグルグル巻きにしたケンは

痛みなんか微塵にも感じさせない顔で
まだブチブチ文句言ってるから
少しだけ口答えしたくなった。


「……だってあんたがベース
弾けなくなったらって思ったら
怖くて怖くてどうしようもなくなって。

昔みたいな思いは
もうしたくないから」

「あ?昔って」


形のいい眉ひそかに潜めたケンの言葉
わざと聞こえないふりして
更に言葉を続ける。


「大事なライブ控えてるのに
あんな真似
心臓止まるかと思った。

あんた結婚すんでしょ?
それなのにベース弾けなくなったら
どうすんのよ」

「あんなぁ、お前に心配されなくても
あいつらぐらい
どうとでもして養ってやるよ。
みくびんな。

それか、いざとなったら
歯で弾くのもありだな」

「はぁ?
ジミヘンじゃないんだから。
しかもあんたが弾いてるのは
ギターじゃないでしょ!」


どこまで本気で言ってるのか
訳わからなくなって
顔をしかめながら空を仰ぐと

こんな気持ちにはそぐわない
満点の星空が痛々しいほどに輝く。


「……なあ、アキ
いい事教えてやろうか?」

「え?」


驚いて横を向くと
ケンはいつにない真剣な顔で
私の方を見てた。


何となくこの先の予感で
心臓がドキンと高鳴る。


「何でユウキがこんなとこで
こんな都心から離れた場所で
音楽やってたと思う?」

「お父さんが残してくれた家に住む為と
昔一緒に音楽やってたあんた達と
バンド組むためでしょ?」

「確かにそれもあるけど
それは二割ぐらいの理由にしか
ならねーな」

「に、二割って
じゃあ残りの八割は?」

「俺から言えるのは
大事な女の為ってことだけ」

「大事な女?」


想像もしてないケンの言葉に
驚いて大きく目を見開く。