――――――

そうして数十分後、
しゃがみ込んだ足の下からは
ガタガタとひそやかな振動。


「ていうかさー
ものの三分後にイキナリ約束
破んないでくれねえ?」

「………」

「もしあのままお前がひかれてたら
俺絶対ユウキに殺されたんだけど」

「………」

「いっとくけどさっきのは
色んなタイミングが重なった
超ミラクルの賜物だから。

二度はゼッテーないからな!
頼むからもっと自分を
大切にしてくれ」


自分の方こそって
意地悪く突っ込もうとしたけど

呆れた口調で話すケンの言葉が
本当に私を心配してると思ったから
何も口に出す事が出来ないまま
抱えた膝をギュット抱きしめた。


それにあの時から
涙腺がバカになっちゃって

さっきからずーっと涙が
止まってくれないから
ますます何も話せなくなる。


――実はあの後
ナイフから手を離したは良かったけど
当たり前に血は止まらなくて

ダラダラと血液が落ち続ける
ケンの真っ赤な腕を見て

彼のベーシストとしての人生
台なしになったらどうしようって
パニック状態に陥った私。

救急車なんて待ってたら
間に合わなくなるって勝手に判断して

向こうから近づいてくる
車のライト目掛けて
道路に飛び出して行ったんだ。


私の身体スレスレに
急ブレーキをかけて止まったのは
かなりポロイ軽トラック。


怒鳴りながら車から降りて来た
運転手のおじさんは
私の涙と血だらけのケンを見て
訳ありって思ったみたいで

詳しい事は何も詮索せずに
後ろの荷台ならって事で
そこから一番近い
救急病院まで運んでくれてる。


――今思い出しても
奇跡みたいにラッキーな事。