「アキ……大丈夫か?
怪我はねぇ?」


ナイフはもう離したけど
そう私を気遣うケンの右手からは
相変わらずポタポタと血が流れ
地面に黒いしみを作っていく。


「け、怪我って
それはあんたの方!
びょ、病院!」


道路の方を向いて
タクシーが通るのを待っても
普通の乗用車がポツポツと走るだけ。


……どうしよう
そうだ救急車っ!


焦りながらもコンビニに向かって
走り出そうとした私の足を止める
ケンの落ち着き払った声。

そして彼が左手で弄ぶのは
アイツが忘れていったバタフライナイフ。


「なあ、アキ
折角だからゲームしようぜ」

「は?
こんな時に何言ってんの?」

「ルールは簡単。
どっちがある状況に耐えられるかの
我慢比べ」

「……そんなのより
早くッ病院!」


訳がわからなくて
震える声で訴えたのに
ケンはまるでそんなの聞こえてない
挑戦的な顔で私の正面に立った。


「俺が勝ったら
もう二度と自殺とか馬鹿な事
しないって約束しろ。

反対にお前が勝ったら
そうだな、ユウキから例の写真
取り返してやるよ」


え!

な、何でその事。


目を見開いて立ち尽くす私の顔の前に
ケンはさっきのナイフ逆さに突き出すと

信じられないことに
血だらけの右手を開いて
また刃の部分を再び握り出した。


「バッバカ!
何やってんのよ!?」

「だから言ったろ?
我慢比べだって。

お前が目の前のこのグロい絵に
堪えきれなくなるか
俺が痛みに我慢出来なくなって
ナイフを離して下に落とすか
どっちかだ」