「ふーん、本当にお前気がつえーな。
実はそーゆー女結構好みだから
俺には逆効果だと思うけど。
でもその強がりもいつまで持つかな〜」


そうニヤニヤ笑いながら
ジーパンのポケットから取り出したのは
銀の柄のバタフライナイフ。

さすがに後ろの二人も驚いたように


「オ、オイ
たかが女一人相手に
それはやりすぎだろ」

「心配すんな、
ちょっと脅かすだけだよ。
ここまできて逃げられたくないだろ?

大丈夫傷付けたりはしねーよ
……まあそれはお前が
抵抗しなければの話だけど」


そうして薄暗闇の中
街灯にひそやかに反射したナイフが
私の方に向けられた。


――コイツ正気じゃない。

元からまともな人間とは思ってないけど
覚悟してたより更にたちが悪い。


目の前に突き付けられたナイフの尖端を
瞬きもしないで凝視してたら
勝手に身体が震えてきて
隠すように自分自身を抱きしめる。

背中に冷たい汗が流れ
口の中がカラカラに渇いてきた。


……やめて。


「あれ〜さっきまでの勢いは
どこ行ったわけ?
そんなに震えてちゃってさー」


カンに障る目の前の男の声も耳に入らず
ジリジリとガードレールまで
目一杯後ずさったら
追い掛けるように
ナイフの尖端が更に距離を縮めてくる。


……やだ。

やめてよ。


――追い詰められて
心がパニックになって
その後頭の中に蘇ってくる記憶。


憎くて、憎くて
一生許せない、あの女の
あの時の顔。


「……そんなもの」

「あ?何?」

「そんなもの
私に見せないでよ!!」


半恐乱でそう叫ぶと
どうなるかなんて全く考えずに

震える手を伸ばし
視界からナイフを消す為に
鋭く光る尖端部分を
力いっぱい握りしめた――。