そんな当たり前の事
どうして今までわからなかったのか。

私だけは
分かってあげなきゃいけなかったのに。


――戻ろう。


戻ってマイクに連絡を取ろう。

彼なら絶対に本当の事
知ってるはずだから。


それに
ユウキもきっと心配してる。


何故だか素直にそう思えて
立ち上がろうと
埋めた顔を戻した私の視界に
NIKEの履き潰したスニーカー。


「……おい」


癖のある低い声を頭上から浴びて
反射的に顔を上にあげた。


「そんなとこで座り込んでなーにしてんの?
具合とか悪……!」


年齢は多分18、19ぐらい。

下過ぎるぐらい腰で履いたジーンズに
ダボついたタンクトップ
ジャラジャラと首の下で鳴る鎖の先には
やたらと大きいペンダントトップ。

金髪の髪の毛は
捩るように立たせてあって
私を見下ろす目は鋭さをもって光る。


ヤバイ。

その男の姿を見て
すぐに頭の中に警戒音が鳴り響く。


この手のタイプの男は
かなりヤバイ――。


私と目があったとたん黙り込んだその男は
しばらく無言で
舐めるように私の顔を見た後
ニヤリとその口元を緩めた。


「やべぇ超カワイイ。
お前が気付かなかったら
危うく素通りするとこだったよなぁ。
シュウ偉すぎ。
なあ、俺らラッキーじゃねえ?」


その男が振り返った先には
彼と同じような風貌の男×2。

そして道路の路肩に停めてある
黒塗りの車。


焦って辺りを見ても
人影は私たち以外まるでなくて
ましては車すらポツポツとしか通らない。


――これは本当に
ヤバイかもしれない。


辺りは何かの工場みたいな建物で
逃げ込むような場所もなくて
唯一200メートルぐらい先に
コンビニらしき明かりが見えるだけ。


とたんに怖くなって
立ち上がって駆け出そうとしたら
ガシッと腕を強く掴まれて
行く手を阻まられた。