――どうする?


このままここにいても
私の置かれた環境も
グルグルと渦巻いたこの感情も
何も変化することはない。


――そう、
逃げても何も変わらない。


子供の頃、自分の心を守るために
何かあるたびに辛い現実から目を反らして
色んな物から逃げてばかりいたから

それがまだ身体に染み付いてて
ふとした時に行動に出てしまう。


ケイと離れなきゃいけなくなった時
“もう逃げない”って彼と約束したのに。


全然変われてないよ私。

でもそれを言うならケイだって。

だって彼は自殺した。


……それじゃあケイは逃げたの?

あれほど私に
逃げるなって言った癖に。


息苦しさに膝を抱えて顔を埋め
何とか平常心を取り戻そうと
深い呼吸を繰り返す私の背中を

時折通過する車の風圧が
やんわりとやさしく撫でていく。


その時ふと
以前言われたユウキの言葉が
頭の中に浮かんで来た。


“世間一般で言われてる
情報になんか捕われんな。
最後は今まで自分が見て
感じて来た物で判断するんだ”


…………。


……そう……だよ。


本当に?

本当に彼は自殺したのかな?


彼をよく知ってる私の心全体が
それは違うって悲鳴をあげて訴えてる。


あの時は余りに動揺して
記事にあるまま信じてしまったけど
やっぱり、そうは思えない。


だってケイが歌を捨てるはずない。
……捨てれるはずないから。