「少ししみると思うけど
我慢しとけよ」


お湯の張った洗面器を床に置いて
傷の付いた足をゆっくりと沈める。

足底から伝わる
ビリビリとした痛み。

でも我慢できないほどじゃなく
それがだんだんと心地よさに変わっていく。


その後も彼は
片膝を立てて床に座り込んだ体制で
私の足の傷に消毒してガーゼを当て
その後は包帯を巻き
さっきまでの態度とは全然違って
かなり丁寧に手当をしてくれた。


「――何でこんな風にしてくれるの?」


訳もなく殴られて、
しかも自殺志望の女なんて
普通の人ならかかわりたくないだろうから。


「さっき言っただろ?
ケガ人ほっとくのは
俺のポリシーに反するって。
それに実は俺の親医者だし
DNAがそうさせたっつーか?」

「え!?」


驚いて声を上げた私を見て
包帯などを片付けてた腕を一瞬止め
からかう様に笑う。


「嘘。
医者なんかじゃ全然ねぇし。
ただのフリーターだし。
期待させて悪いけど」


フリーター。

あいまい過ぎてわからないけど
ただのフリーターが
こんな家賃が高そうな家に住めるの?

……って別に関係ないことだし。


そう思って視線を床に移すと
彼が洗面器を持って立ち上がるのと同時に
ソファーのそばに置いてあった
私の鞄の中から携帯が震える音。


「――何だよ?
気にぜず出ろよ」


躊躇する私を不思議そうに見ると
そのまま洗面所に消えていったそいつ。

足をかばうようにして身を乗り出して
鞄から携帯を取り出した。


さっきあのまま海に沈んでたら
こうして会話することなんか
なかったんだと思うと
なぜだか胸がズキンと疼く。