そこから会話も殆どなく
30分ほど車で走って着いたのは
市内駅前の古いマンション。

灰色の外壁はかなり煤けてて
どっしりと趣のある情感を漂わせてた。


車を駐車場に止めた後
足を引きずりながら
そいつの背中を追いかける。

窓ガラスを全開にして
ここまで走って来たせいか
私の服はすっかり渇ききってて

何で今自分がここにいるのか
わからなくなってきた。


考えたら口車に乗せられた気がしてきて
しかも連れて来られたのはこんな所だし。

……でも今更どうなろうとかまわない。

それに今は頭が疲れすぎてて
何も考えたくなかったから
正体不明なこの男と共に
構わずエレベーターに乗り込んだ。


かなり無理して歩いたら
マンションの最上階の7階にある
この男の部屋に着いた時には
左足にしびれるような感覚が広がってきて
嫌な汗が背中を流れていく。


「とりあえずそこ座っとけよ」


家の中に入るとすぐに
20畳ほどのリビングがあって

そこに置かれた黒い革製のソファーを
顎で指しながら彼はそう言うと
手前にあったドアを開け中に入って行った。

すぐに水音が聞こえたから
多分中は洗面所っぽい。


ひんやりとした部屋の空気に
少しだけ気持が落ち着いてきて
ゆっくりと黒いソファーに腰を沈めた。


何となく手持ちぶたさで
キョロキョロと部屋の様子を見る。

白いタイルの床に
コンクリート打ちっぱなしの壁
大きめのテレビ
アルミ製の淵のガラステーブル
艶消しシルバーのスタンドライト
モダンなデザインのチェスト

リビングに面したカウンター式の
小さなシステムキッチン。


……何してる人なんだろう。

平日の昼間に海にいるなんて学生?

でも学生の一人暮らしにしては
この部屋は豪華すぎる。


そんな風に考えてたら
ガチャリとドアが開き
洗面器とタオルを持った彼が
こっちに歩いて来た。