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「……で、ケイってば
勝手にイーライのとこ
断りに行っちゃったんだよ!」

「ふーん」

「“ふーん”ってそれだけ?
他に言う事ないの?

例えば“俺からケイに注意しとくよ”とか
“それは大変だったな”とか
労りの言葉をかけてくれるとか」

「そーゆー会話がしたかったら
他の奴のとこ行け」

「むぅ!」


5月といっても
モントリオールはまだ寒くて
雲一つない青空の下にいても
冷たい風が吹き付けてくるから

目の前の人物を睨み付けながらも
ブルッと身体が震えて
クシャミを一つ。


服薄着すぎたかなぁ。

だってケイがいきなりこんなとこ
引っ張ってくるんだもん。


あの一件からすぐ
ケイは何事もなかったかのように帰宅し
私をこんな運動場に連れ出した。


何やら今日ケイが珍しく早起きしたのは
彼も試合があったかららしく

ってもそれはお遊び的なサッカーの試合で
みんなふざけ合いつつ
時にゲラゲラ笑いながら
ボールを追い掛けてるのを
グラウンド脇のベンチから眺める。


そんな私の横で
さっきの冷めた返答をしてたのはマイク。

こんな外でも当然
膝の上にはギターがあって

あの衝撃の出会いから月日が流れ
大分彼と親しくなった今の私にとっては
そんなの今更驚くことでも何でもない。


現にさっきの私の愚痴だって
きちんと聞いていたのかも不明で
彼が唯一反応を示したのは

「いきなり押し倒されて
耳舐められたんだよ!」と言った後に

ふいにギターの音色が止み
吹き出したように笑った後

「そっか、アイツバカだな」
と独り言のように言った時くらい。


相変わらずその性格は掴みきれないけど
彼の回りの空気は居心地がよく

そのギターの音を聞いてるだけで
心が満たされたような
穏やかな気持ちになった。

それに愚痴るだけ愚痴ったら
スッキリして


「ねぇ、そのギターいつものと違うね?
新しいの買ったの?」