「ひ、ひゃあ!」


両手首が解放されたと同時に
耳に生暖かい感触。


「ああ、ごめんアキ
感じた?」


……い、今の何?
耳舐められた?


慌てて起き上がって
理由もわからず
真っ赤になった顔を感じながらも
耳を押さえてケイの顔を見る。


「し、信じらんない
人のことからかって」


ケイは古着のジャージの襟元に
顎を埋めつつ

明らかにニヤニヤとしながら
慌てる私を面白がって眺めた後
偉そうな口調で語り出した。


「これでよーくわかったろ?
お前なんかその気になりゃ
どうとでも出来る訳。

んな事もわかんねーガキが
無防備に休日に男と会ったりとか
してんじゃねーよ。

お前はキスもセックスも
18になるまで禁止!
わかったか!」


……は?
今、なんて?


「ちょっと!
何自分勝手な事いってんの?
ケイは色んな女の人
取っ替え引っ替えしてる癖に」

「うっせえ!
それはそれ、これはこれだ。

……それともお前
そんなに怒って
本当はキス、したかったとか?」

「そ、そんな訳無いじゃん。」

「ならそーゆーことで、deal?

じゃ俺今から行ってくるから
お前は家から一歩も出んじゃねーぞ!」

「え?
行くってどこへ?」

「決まってんだろ。
フィルの家
イーライに断りの話つけてくる」

「ちょ、ちょっと待ってっ!」


そんな私の叫び声も虚しく
ケイは部屋から飛び出して行った。


嘘。

大丈夫かな、イーライ
凄く悪い事しちゃった。


兄のフィルによく似た
いたずらっぽい彼の笑顔を思い出して
胸がズキリと罪悪感で痛む。


――そして
さっきの恐怖のせいなのか
それとも彼が去って
ホッと安心したせいなのか

理由のわからない一筋の涙が
膝を抱えた私の頬に
今更ながらスッと流れ落ちた。


頭に残るのは
さっきのケイの冷酷な瞳の色。
ただそれだけ。