――春
モントリオールに来て半年が過ぎた。


相変わらずジェフは仕事ばかりで
家にいないし
母親もそんな彼に付きっきりで
電話すらない。

でもべつにいつもの事だし
寂しくも何ともない。


もちろんケイと私の仲も良好
絵に書いたような仲良し兄妹。


全て順調、いつも通り
心配事は何もなし。


……ある一つの出来事を除いては。


――学校が終わり
いつもの如く
迎えの黒塗りの車に乗って家に帰る。


そして自分の部屋に鞄を投げ捨て
急いで向かったのはケイの部屋。

でも当然ケイは私より帰宅が遅いし
目的は別にあって――。


薄暗い無人の部屋に足を踏み入れて
更に奥に進み
部屋の右側にある重いドアを開けた。


ブツブツと壁に細かい穴が開いた部屋の中
大量のCDやDVD
オーディオ機器や映画館みたいなスクリーン
あの白いベースにキーボード。

他にも訳のわかんない機械が
山ほど置いてある
名称『ミニ“親のすねかじり”スタジオ』。
(ケイがそう言ってた)


実はケイのバンドのライブに行って以来
音楽ってものに凄く興味が沸いた私は

“自由に使っていーよ”って
ケイも言ってくれたこの部屋で
CD聞いたり
音楽のDVDを見るのが最近の日課だ。

使い方を覚えたてのDVDデッキに
お気に入りの一枚をセットし

流れ出した音と映像に見入っていたら
少し開いてた扉の向こうから
カタンっと物音が聞こえた。


ケイ、帰ってきたのかな?


ドアノブに手をかけて
隙間から顔を出そうとしたら
目の前で繰り広げられてた光景に
身体が固まった。