砂浜に座り込んだまま
苛立ちをぶつけるみたいに
砂を握りしめたら
左腕を凄い力で掴まれて
身体がフッと空中に持ち上がった。


「勝手に人の事殴ってやり逃げかよ?
こう見えて俺は結構常識人だから
怪我人ほっぽっとくのは
ポリシーに反するし
仕方ねぇから手当してやるよ」


そして私を引きずるようにして
砂浜に面した大通りの方角へ。

見れば黒い車が路肩に停車されてて
きっとこの男のものだって
当たり前に気が付いた。


知らない人の車に乗るなんて
冗談じゃない。


「離してよ!
別にそんなの頼んでない」

「ふーん。
その格好で人前に出てもかまわねえなら
勝手にすればいいけど」

「格好?」


意味がわからず自分の姿を見下ろすと
白いタンクトップが水に濡れて
下着が透けて丸見えになってて。


鋭く悲鳴をあげながら
自分の身体を抱きしめてしゃがみ込む。

両頬が尋常じゃないほど
真っ赤になってるのが自分でもわかった。


「ククッありえねえくらい真っ赤。
で?どーすんだよ。
俺は別にどっちでもいいけど?」


拳を口元に置いて笑いを噛み殺した後
人を試すような
面白そうな物を見る目をして
私を見下ろした。


その顔がまた、有り得ないけど
いつかしたケイの顔とダブって見えて
心臓がゾクリと沸き立つ。

――頭がおかしくなって
自然と動く口。

ただ再びケイに会いたくて。


「ならあそこの鞄と靴
取ってきてよ」


ふざけんなって
怒鳴られると思ったけど

そいつはまたフッて笑った後
「リョーカイ」って呟いて
波打ち際のほうに大股で歩いて行った。


――波の音が静かに耳に響き
真夏の太陽がジリジリと肩を焦がした。