嘘、何で……!


これは……この声
この歌声は――ケイだ。


――ケイが歌ってる。


私のいる場所から20メートル先の
ステージ右側で

スポットライトを浴び、
白いベースを抱えながら
歌い、叫び声をあげるケイ。


この声
このメロディ。

今まで一度だって出会ったことがない
こんなに打ちのめされて
でも引き付けられずには
いられない歌声。


人の精神に入り込んで
そのまま掠われるような不思議な感覚。


痛々しく感情的に歌えば
自分の気持ちもそんな負の感情に侵され

喜びと高揚感のある響きを持ってすれば
同じように心が高ぶっていく。


もう逃れられない。


ケイ……痛いよ。
胸が痛いけど、熱い。

それに悲しくて
切なくて、でも暖かい。


色々な感情が
自分の許容量を越えて
溢れ出した。


……その後は
彼らがステージから降りるまでの
約30分もの間

私は動く事も
声を上げることも
ましてや瞬きをすることさえ出来ず

ただステージを真っすぐに見つめ
ポタポタと大粒の涙を
流し続ける事しか出来なかった。