「どうせ死ぬなら
人の迷惑のかからないとこで
ひっそりと死ねよ。
まあ自殺とか考えるようなやつに
常識解いたってどうしようもねーけどな。

しかも海でわざわざ死ぬとか
どんだけロマンチストなんだよ。ダサすぎ。
そういう奴は大概死を美化して
生まれ変わりとか運命とか絆とか?
馬鹿みたいに信じてるんだろ?

ただ現実から逃げてる弱虫野郎のくせにさ。
スゲー笑える。
だいたい――」


流れるように発っせられる台詞の途中で
掴まれた腕を引き抜き
彼の口の動きを遮るように響かせた
鋭く高い音。

――その後に私の掌に伝わる
熱を持った痛み。


彼の言葉に凄く頭にきて

私じゃなくて――それよりも
ケイを蔑まされた気分がして
瞬間理性を失って
感情のコントロールが出来なくなった。


ずっと遮られていた血液が
ドクドクと指先まで伝わっていく。


――するとそいつは
私に殴られた頬の痛みなんか
全く感じてない顔で
鋭い視線を真っ直ぐ私に向けてきた。


刃物のような危うさを見せる
濃い茶色の瞳。

怒りなのか憐れみなのか。

強い光りに全て見透かされてるみたいで
耐え切れなくなって自然と顔をそらし
そのまま勢いよく立ち上がり
熱くなった砂浜に一歩足を踏み出した。


……痛ッ!!

だけど再び
足裏の傷口に鋭い痛みが走って
反射的にその場に座り込む。


砂浜に滲んだ血液が
私の視界を暗く赤く歪ませた。

――その色はケイと私を繋ぐ
確かな物の一つ。


……バカじゃないの?
死ぬつもりだったくせに
何痛みなんか感じてんのよっ。


そんな自分が情けなくて
悔しくて、格好悪くて
立ち上がれないまま俯いて
唇を噛み締めた。


また感情が闇に捕われて。

――ねぇ、ケイ。
どうして死んだの?

あの“約束”はどうなるの?