試合の展開で時折声を上げる二人をよそに
私は身体を正面に戻す。

サッカーに興味ないのは勿論だったけど
それ以上に気になるものがあったから。


さっきの二人と違って
自己紹介も何もなし、
ましてや一度も目も合わせないで
私の存在を認識していることさえ
疑わしい彼。


モミアゲ長めの黒髪に
眉毛はオシャレにラインが入ってて
黒い瞳には銀色のフレームの
長四角の眼鏡をかけてる
かなり濃いめの彫りの深い顔。

ケイよりも落ち着いた雰囲気で
テレビをじっと見つめながらも

膝の上にはずっとギターが抱えられてて
細長い指で時折弦を押さえたり
逆の手はなぞるように動かしたり。


音を出すわけじゃないその行為が
凄く不思議だったし

知識としては知っていたけど
初めて間近で見るギターそのものの姿に
目がくぎづけになっていた。


メタリックの黒いギター。

滑らかな曲線と
電気を反射して光るその姿が綺麗で
瞬きを忘れるくらい凝視していたら、


「……Ibanez」

「えっ?」

「Ibanez Custom AX。
このギターの種類」

「アイ……バニー…ズ?」

「そう」


それだけ口にすると
彼はまた再び黙り込んでしまって
どうしよう……と
ケイにチラリと視線を送って
助けを求めると

彼は堪え切れないっといった風に
肩を揺らしながら激しく笑い出した。


「ふははっ!
アキ、コイツは
いつもこうだから気にすんな。

ギターバカ?ってか変態?
シャワーん時以外は四六時中
ギター持ってるからヤバイだろ?

名前はマイク、俺の幼なじみね、
コイツの家うちの隣だから
もし俺が家にいなかったら
大体はコイツんとこにいっから」

「隣ってオレンジの塀の?」


うちの敷地のすぐ隣にある
三角屋根のカワイイ家を思い出しながら
そう聞くと


「そっ!
お前もコイツに用があったら
勝手に入って来ていいから
二階の1番左奥の部屋な?」


えっ!?勝手にって
そんなの出来るわけないし。