「イッテー!
わかった、わかったから蹴るな。
オニイサン怖い!
んで、どうやって塗ればいいわけ?」


私を静かに床に下ろしながら
フィルは痛むらしいすねを摩り
ケイを仰ぐと


「ああ、あそことあそこの
出っ張ったとこは青で
あとあそこの上の縁んとこも青
後は全部水色な」

「オッケ!
じゃあ早速やっか、ヴィンス」

「おー!
じゃあまず俺家具全部に
カバーすっから」

「そんじゃあ俺は
青になるとこ全部マスキングすんな」


テキパキと作業する二人がちょっと意外で
キョロキョロと視線を泳がせていると
ケイが私を抱き寄せながらも
ニヤリと微笑んだ。


「あぁ、あいつら美術専攻だから
こういうの超得意なの。
二人に任しとけばバッチリだから
俺らはあっちで休憩しようぜ〜」

「でも私の部屋だし
手伝わないと」

「いーのいーの
あいつらなんかに気を使わなくって
それにお前が側にいないと心配だし
ほらっ行こうぜ」


だったらケイも一緒に
作業すればいいのに
その選択肢は彼の中に存在しないみたいで

私を強引にソファのところまで
引っ張っていく。


――私の方もソファに目を向けたとたん
ケイの動きに逆らうのを止めた。


……っていうのは
さっき部屋に入って来たのは
フィルとヴィンスの二人だけじゃなくて
実はもう一人一緒に来た男の子がいて。

その人物は私たちに目もくれず
声も出さずに
さっさとソファに向かった姿が
凄く気になってたから。


白のソファにダラリと座りながら
テレビを見てた彼の正面に

ケイはごくごく自然に
自分の隣に私を座らせると
左側にあるテレビに視線を向けた。


「これ昨日の?」

「そう、今まだ前半
ゼロゼロ」


ケイよりも更に低い
でも清らかにスッと響く声。

彼の回りに流れる清涼な空気が独特で
ドキドキしながらも同じくテレビを見ると

どこかの外国のチームの
サッカーの試合が放送されてて
綺麗な緑の芝生の上では
青のユニホームと白のユニホームを
着た選手が走り回ってた。