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メルヘンチックな部屋の中
ペンキとハケを両手に持って
フザケ合いながらも
作業を始めて一時間半後

四方を取り囲む壁の一辺が
春の空のように綺麗な水色で
塗り上がりそうになった時

いきなりケイがペンキを下に置き
床にドサッと倒れ込んだ。


「ケ、ケイ?
どうしたの?」

「……飽きた」

「は!?」

「だからーもう俺ダメ!
超飽きた!
“やーめた”って言ったらアキ怒る?」

「なっ!」


予想もしてなかったケイの言葉に
呆れて言葉が出ない私を
彼は悪びれた様子もなく
大の字のままニヤケて見上げてくる。


「だってさーこの壁
あと3枚もあるんだぜ?
俺とお前だけじゃ何時間かかるんだよ。
これ以上はやりたくねえぇ!」

「ちょっとケイ勝手過ぎ!
じゃあ私こんなぐちゃぐちゃな部屋で
これから過ごさなきゃなんないの?

酷いよ!
出来ないなら出来ないって
始めに言ってよ!」

「は?っざけんな!
いつ俺が出来ないって言ったよ。
俺に不可能はない!」

「じゃあこの部屋どうすんの?
もうケイ訳わかんない!」


――今思えばこれが初めての兄妹喧嘩?

だってケイが余りに勝手過ぎるんだもん
スッゴい気分屋!


頬っぺたを膨らませて
彼を睨んだまま側に座ったら
ケイは上半身だけ起き上がって
掌で私の頬をぶーっと潰す。


「ハハッ
オモシレー顔」

「う、うるさーい!
ごまかしても無駄!」

「んなカリカリすんなよ、
ちょっと待っとけ」


そうしてケイは
黒のパンツのポケットから
スライド式の携帯電話を取り出して
どこかにコールすると


「……あっ俺、俺。
ウン、そう。

あのさ超急用あるから
今から家に来いよ。
そっ!あいつらも連れて。

10分以内な
遅れたらあの事サリに言うから。
……えっ?
ハハッ俺はいつでも本気だけど?
ああ、わかった
うん、じゃあまた」


ちょっと待って
今の会話、誰か来るの?